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給与所得該当性が争われた最高裁判例など

1 所得税法は,担税力等の相違を考慮して,所得を10種類に分類して税務上異なる扱いをしています。したがって,ある所得がいかなる所得に分類されるかは非常にシビアな問題を提起します。

2 事業所得について所得税法27条1項は,「事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定する一方で,給与所得について所得税法28条1項が,「給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」と定めており,具体的な所得の区分が明らかではない場合には,過去の事例や,以下にあげる最高裁判例の解釈・適用が重要と言えます。

3 弁護士の顧問料収入について,納税者は給与所得,課税庁は事業所得と主張し,事業所得と認定された最高裁昭和56年4月24日判決は,「判断の一応の基準として,」「事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお,給与所得については,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」としています。

4 りんご生産組合から支給された報酬について,納税者は給与所得,課税庁は事業所得であると主張し,給与所得と認定された最高裁平成13年7月13日判決は,「当該支払の原因となった法律関係についての組合及び組合員の意思ないし認識,当該労務の提供や支払の具体的態様等を考察して客観的,実質的に判断すべき」としています。

5 いわゆるストックオプションについて,納税者が一時所得,課税庁が給与所得であると主張し,給与所得と認定された最高裁平成17年1月25日判決では,結論を導く部分で,「本件権利行使益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたもの」という判示をしています。

6 給与所得か事業所得かで,特に会社側としては,源泉徴収義務の存否,仕入れ税額控除の可否,それぞれの加算税の賦課処分の可能性などの違いが生じてくることから,事業形態への影響も大きなものと言えます。