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投資信託における受益者の民事再生と相殺についての最高裁判例

 民事再生法についての最高裁判例がでました(最高裁平成26年6月5日判決)。

 事案をざっくりまとめると,証券投資信託における受益者である再生債務者が支払停止の状態に陥ったところ,当該証券投資信託の販売会社である銀行が,受益者である再生債務者が販売会社である銀行に対して有する一部解約金支払請求権と,受益者である再生債務者に対して有する債権とを相殺したというもので,相殺禁止に該当するかという点が問題となりました(事案の詳細は,判決文にあたってください。)。

 民事再生法93条1項3号は,「支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合」には,相殺が禁止されることを定めていますが(これに該当することは,原審名古屋高裁平成24年1月31日判決(倒産判例百選66事件)でも肯定されている。),さらに,民事再生法93条2項2号は,「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく債務負担の場合には,相殺が禁止されないことを定めています。

 最高裁は,民事再生法93条2項2号「前に生じた原因」が肯定されるのは,再生債権者が債務を負担する際に,相殺の担保的機能に対して合理的期待を有していたといえる場合であるという解釈論を前提に,「本件債務の負担は,民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず,本件相殺は許されないと解するのが相当である。」という結論を導いています。

 理由として,以下の4点を挙げています。

① 再生債務者が有していたのは投資信託委託会社に対する受益権であって,これは全再生債権者が再生債務者の責任財産として期待を有しており,解約実行請求に基づく本件解約金の支払請求権は本件受益権と同等の価値を有すること

② 解約実行請求は,再生債権者である当該銀行が再生債務者の支払停止を知った後になされたこと

③ 再生債務者は,本件受益権につき原則として自由に他の口座へ振り替えをすることができ,振替がなされた場合には再生債権者である当該銀行が解約金の支払債務を負担することは生じ得ないこと

④ 本件においては,債権者代位権に基づき解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれること

 どのような事案にまでこの最高裁の射程が及ぶのか,さしあたり受益者が破産した場合にも及ぶのかについての議論がなされるものと思われます。