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抱き合わせ販売

  独占禁止法(正式名称は,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。)は,公正で自由な競争を促進するために「不当な取引制限」,「私的独占」,「不公正な取引方法」,「企業結合規制」という反競争的な行為を禁止しています。

 「不当な取引制限」とは,複数の同業者が競争を制限する協定を結ぶことであり,「私的独占」とは,ある企業1社が不当な手段で市場支配力を獲得したり,維持する行為を指します。

 私的独占や不当な取引制限が行われることにより市場における競争がなくなってしまうのを避けるため,これらの行為を防止するために禁止しているのが「不公正な取引方法」という類型です。

 「不公正な取引方法」については,公正取引委員会(「公取委」と略すことが多いですが,呼び方としては「こうとり」というのが一般的です。)が指定しており,全業界に共通に適用される禁止行為(いわゆる一般指定)と,特定の業界にのみ適用される禁止行為(いわゆる特殊指定)があります。

 公正取引委員会は,独占禁止法に違反した企業に対し,行われた違反行為を排除するために必要な措置を命ずる(これを「排除措置命令」と呼びます)ことができ,価格カルテルや談合に対しては課徴金納付命令を発することができます(平成21年独禁法改正により,私的独占や不公正な取引方法にも課徴金納付命令の適用範囲が広がりました。)。

  違反行為の被害者は,違反企業に対し,公正取引委員会への申告や,差止の仮処分,差止の訴訟や損害賠償請求をすることも考えられます。

 公正取引委員会への申告のメリットとして,公正取引委員会は審査開始後も申告の有無や申立人を明らかにしないという意味で秘密が守られるという点が挙げられます。

 商品の購入者に別の商品を強制的に購入させる「抱き合わせ販売」は,「不公正な取引方法」の一例であり,ドラゴンクエストⅣに関する以下のような事例があります(ドラゴンクエストⅣは小学校の低学年の時にファミコン版が,大学生のころにPS版が発売され,それぞれ夢中になった思い出のゲームソフトです。弁護士になって,独占禁止法の本で触れることになりました。問題となったのは,ファミコン版が発売された平成2年ころです。)。

 事実としては,ゲームソフト卸売会社の藤田屋が,「ドラゴンクエストIV」の卸売に際し,「従来の取引実績に基づいて割り当てる本数以上の購入を望む小売業者には,在庫中の他のゲームソフト3本を購入するごとに1本を販売する」というように,ドラゴンクエストIVと他のゲームソフトの抱き合わせ販売を行ったというものです。

 公正取引委員会は,⑴抱き合わせ販売の中止を小売店に周知徹底すること,⑵今後は抱き合わせ販売を行わないこと,⑶⑴に基づいて採った措置の公正取引委員会への報告を命じる審決(排除措置命令)を下しました(公取委1992年2月28日勧告審決 審決集38巻41頁)。

 顧客が望まない商品の購入を強制するものであり,顧客の商品選択の自由を奪うと共に,有力な商品と抱き合わされる商品の競合企業にとっても,自由で公正な競争が阻害されることになるため規制されるというのが理由の要旨です。

 ただし,本件については,ドラゴンクエストIVの市場力を利用した行為が問題の核心であるとして,「優越的地位の濫用」の適用を検討するべきであったとの有力な見解もあります。

 独占禁止法は,近時,重要な改正が多くなされており,また,高額の課徴金納付命令が出される事案や,コンビニでの見切り販売が問題となる等,独占金禁止法に関する事例が続出しており,弁護士としても十分な研鑽が必要な分野といえます。

  なお,ドラゴンクエストの最新作は,本日,無事発売されたようです。