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使用者の責めに帰すべき事由による労務の履行不能と債務の本旨に従った履行の提供

 労働者は、使用者の「責めに帰すべき事由」による履行不能の場合には、民法536条2項により、賃金請求権を有することとされています。

 実務では、権利濫用により無効と評価される解雇、休職、自宅待機等で問題となります。

 労働者が履行の意思と能力を保持していなければ、後に解雇等が無効とされたとしても解雇期間中の賃金請求権は認められないというのが菅野説です(菅野409頁。転職をして新たな使用者の職務に専念しているという場合は保持しているとはいえないとされます。)。

 ペンション経営研究所事件(東京地判平成9年8月26日)では、履行不能が使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証する前提として、労働者が客観的に就労する意思と能力を有していることを主張立証すべきである旨判示されています。

 この点については、履行の意思と能力の喪失が使用者の責めに帰すべき事由によって引き起こされたといえる場合には、全体として使用者の帰責事由を肯定するべきという観点から、履行の意思と能力自体を独立の要件事実と解釈するべきではないという考え方も主張されています。